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さわやかでまえむきな人間になりたい男が
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【音楽小話】僕の親友は赤毛のアンだけ! 三善晃と「赤毛のアン」主題歌に寄せる

「私ね、中学生の時『私の親友は赤毛のアンだけ』って思ってたの!」 

大学の時に女の子の友達がある日こんな事を言い出した。かなり変わった子というのは分かってたけど、なんとなく理解はできた。そしてその後この言葉がずっと自分の中に残っていた。

それからしばらく時間が経って、レンタルビデオ屋でアニメーションの「赤毛のアン」を借りた。昔、フジテレビで日曜夜7時半からやっていた「世界名作劇場」のシリーズ。懐かしい。

再生し始めて、主題歌が流れる。そこでいきなり心を奪われてしまった。


赤毛のアン オープニングテーマ:きこえるかしら - YouTube

そして、この曲が三善晃の作曲、編曲だと知って驚いた。

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Akira Miyoshi January 10, 1933 – 4 October 2013

 

三善晃という名前を皆さん知らないかもしれない。しかしクラシック作曲界の中では「三善晃センセイ」と付けなければ畏れ多いとも言える大家だ。戦後のクラシック界をリードし、最尖端の現代音楽を作り続けてきた。桐朋学園大学の学長も努めた。合唱曲もたくさん書いたので、合唱部だった人は知っているかもしれない。

最近だと新垣隆さんが三善門下だった。佐村河内守が記者会見の時にわざわざ三善先生の名前を出して腹立った。

とにかく純クラシックの凄い人!そんな人がアニメの主題歌を書くなんて。驚愕だった。

驚愕なのはその内容!

オープニング:「きこえるかしら」


赤毛のアン オープニングテーマ:きこえるかしら - YouTube

短いイントロから歌が始まる。バッキングは、サックスのカルテットとトロンボーン。軽快な曲調を引き立てる心地良いサウンド。音程のあるウッドブロックがカコカコとリズムを取る。

「きこえるかしら ひづめのおと」という歌詞も相まって、馬車を表現しているのかな?

「むかえにくるの むかえにくるのね」はピアノと中太鼓が、鼓動のようなリズムでボーカルと語り合う。

そして馬車が「白い花の道」へ突入していく。

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「だれかが 私を つれていくのね」

このメロディの後に異世界(アンの想像世界)へ誘いのように、ハープとストリングスが現れる。白い花に包み込まれて、大地の無い、終わりの無い世界へ吸い込まれる。

 

オープニングの映像でも、本編1話でもこのイメージは崩れない。アン曰く「幸せの白い道」

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エンディング:「さめないゆめ」

www.youtube.com 

 

エンディングテーマ「さめないゆめ」も三善先生の曲。この曲が素晴らしい。本当に素晴らしい!「きこえるかしら」も名曲だけど、こちらの方が好きかもしれない。

アニメ本編の筋を忠実に再現したオープニング曲とは異なり、ひたすら「さめないゆめ」である。

イントロで提示される16分音符のピアノのフレーズ。前半はこの細かい動機が右へ左と展開される。ピアノを中心に、ところどころチェレスタ(金属的な音のする鍵盤楽器)、グロッケンシュピール(キンキンした高い音の鉄琴)が繋いでいく。曲のテンポは早めなのに、遠慮しない16分音符の細かなフレーズ。小さな花びらがぐるぐる回って空に繋がっているかのよう。

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この曲は短くあっという間に終わるのだが、いわゆるAメロにあたる「もえるくもは もっととおく」の後、歌が無くなりオーケストラが支配する。

トロンボーンとストリングスの緊迫のせめぎ合い。さめないゆめを潰そうとする敵と戦うかのような、躍動感のあるフレーズ。ストリングスとトロンボーンがやがて融合し、そこでタムタム(銅鑼)がガシャーンと一発!すごい!勝利の銅鑼が鳴り響く、戦いは全ては終わった。

「花のなかで いちにちは終わる さめないゆめみたいに」

勝った。さめないゆめを獲得した。

 

三善晃先生の完璧なオーケストレーション

隅から隅まで素晴らしいこの2曲。数々の現代音楽のオーケストラ曲を書いてきた三善先生に取ってみたら、もしかしたらチョロっと書いてみたよ!みたいな感じかもしれない。しかしよく聴くと細かい音符が整理されている。

スコアを見たことはないけれど、音の強弱や、アーティキュレーション(スラーとかスタッカートとか)そして音の強弱、クレッシェンド(段々大きく)デクレッシェンド(段々小さく)も書かれている気がする。

細かな計算と適切な楽器配置など、「さすがプロ」と軽い言葉で片付けられない、クラシック界におけるトップランナーの本気を感じる。今、これだけの曲、スコアを書ける人がいるのだろうか。全ての楽器の特性を把握し、和声を理解し、操れる才覚を持つ人…

 

死につつあるバックトラックの「音のダイナミクス

吹奏楽やらピアノでも、大事なのは音に強弱をつけること。この曲はそれが上手く使われていて、耳に新鮮。世の中を支配した「ポピュラー・ミュージック」はほとんど「音の強弱」が無いと言ってもいい。「バックトラック」は最初から最初までずっと音の大きさは変わらない。たまにギターとかピアノだけになったりするくらい。

「音の強弱」が関連しているのは、ボーカルぐらい。ボーカルを引き立たせるために、「バックトラック」は犠牲になった。

「きこえるかしら」「さめないゆめ」のボーカルはベテランの歌手、大和田りつ子さん。武蔵野音楽大学声楽科を卒業した彼女。よく聴くとここでのボーカルは、ほとんど強弱なく、「そういう楽器」であるかのように歌い上げる。その事で、素晴らしいオケを引き立たせている気がする。アカデミックな教育を受けた彼女はもしかしたら、このオケを聴いて「あえて、そうしよう」と思ったのではと推察してみる。

よく「歌は気持ちを込めて歌えば伝わるよ!」とか言うけれど、他人の心なんてわからない。伝え方がダメだと、それも伝わらない。

結論

このブログを書くにあたって、日本アニメーションが公式ページで公開している第1話を観た。 

www.youtube.com

楽しい事がおしまいになると、私、いつも悲しくなるの

その後でもっと楽しい事が待っているかもしれないけど

それが大抵そうでない時の方が多いのよ

私の経験ではね

 

「きこえるかしら」から始まり「さめないゆめ」で終わる。

上のセリフを聞いた後に、こみ上げるものが来たが、ぐっとこらえた。

そして思った。「僕の親友は赤毛のアンだけ」