さわやかでまえむきな人間になりたい男が
好きな「文化」を語る。
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【小説】「オンナ、哀しい、オトナ」セクシーオトナジャン

夜23時、私のような商売の人間はこれからが本当の夜。

繁華街の端っこの「クラブ」の地下、私はここで働いている。お客さんにお酒を飲ませて、楽しく歓談する仕事。もともとキャバレーだった所をオーナーが買い取って「キャバって言葉が好きじゃない」という理由で「クラブ」になってる。キャバレーだから、小さなステージもあり、ちょっとしたショーなんかもある。体験入店で入った時、突然店の子達が歌って踊り出してビックリした。

でも私はそれが気にいった。歌は好きだった。音楽を聴くのも。

 

初ステージの後に「歌が凄い」と言う事で、どこかで聞きつけたお客さんが沢山やってきて、私の売上げは増えた。お客さんとの会話は適当だった。相手の言う事を真に受けない。小さい頃からそうだった。だからこの商売は向いていると思った。

「ミキちゃん本当に可愛いね」

「ミキちゃんって独特の雰囲気があって、ほんとステキだよね~」

酔ったお客さんがいつも声を投げかけてくる。でも、私は自分がキレイとか、可愛いだなんて思ったことは一度も無い。

 

お客さんが帰る。店はまだ混んでいるけど、休憩したいと思いすぐ引っ込んだ「ごめん、休憩するから、ちょっと下がるね」ボーイに声をかけて休憩室に下がる。

ピークタイムでみんなフロアに出ているってのもあるけど、休憩室には誰もいなかった。

鏡台の前の椅子にドスっと腰を掛ける。落ち着く。元キャバレーなので建物は西洋風で柱も太くて立派。そんなレトロな感じが落ち着く。ただ、ショーの衣装や私服が散乱しているところは気に入らなかった。

タバコに火をつける。ハイライト・メンソール。他のタバコよりほんの少しだけ安い。「他のよりほんの少しだけ安い」って私にぴったり。

ピリッとした煙がタバコから出てきて、私はそれを吸い込んで上へ吐き出す。煙が壁や天井に染みこんで、自分の跡を残せた気がする。変なの。私。

やっぱり私って変わってるのかな。昨日の出来事を思い出す。

 

「ミキって変わってるよね」

 

恵比寿のオシャレしか脳が無い、といった感じのバーのカウンターで私は男と飲んでいた。

「テツだって変わってると思うよ」

「どこが?」

「うーん全体的に?」

もともとお店の客だった、テツ。職業はたぶん大学生。彼の普段の様子、出身、全く興味が無かった。ただ、一緒にいると話のウマがあってとにかくラクだった。服装はきちんとしていて、金払いが凄く良いのが気になっていた。

東京で一人暮らし。声を言葉にして口に出す仕事はしているけど、「会話」は全くしていない。友達もほとんどいなかった。でもテツといると気持ちがラクになって何でも話してしまう。

全体的にと言ってはみたけれど、テツはやっぱり変わっていると思う。

「じゃあさ、ミキと俺が付き合ったら、全体的に変わってる2人だよな」

「えー」

「そしたら多分、変わってない2人になるってことだよね」

「よくわかんなーい」

テツとは付き合っているとは言えないような関係だった。

私の中には恋愛というものが昔から無かった。「流れ」で適当に人と付き合ったりした。

人を好きになるなんてということは、全て他人事だと思っていた。

 

「ミキみたいにすげー可愛いと、やっぱりずっと鏡を観てるの?」

「…」

黙りこくった私に、少し戸惑ったテツ「ごめんね?何か悪い事言ったかな?」

「…私、鏡、嫌いなの」

間を置いて

「鏡、見るのが怖いの」

「えっ 化粧の時はどうするの?」

「鏡に顔を近づけて、塗りたいところだけ見るの」

空気が少し悪くなった気がして「テツだってさカッコイイから、ずっと鏡見てんじゃないの?」

笑顔で私は言った。

遠く見るような目をしてテツがゆっくり呟く。

「俺も、鏡、嫌いだな」

心がいつもと違う感覚に襲われた。

ヤダ、面倒くさい。

でも生まれた感情に抗えなかった。テツはニコニコ笑っていた。

 

気が付くと、5本もタバコを吸っていた。

そして鏡の中に、夜に焼けただれたかのような自分が映っているのに気づく。

「いや!」鏡に思いっきり煙を吹きかける。自分を映したくない!何度も何度も吹きかける。

そんな時、突然に声が部屋に響いた。

「ミキちゃ~んそろそろ休憩いいかな?指名入ったよ」「あ、はい」「よろしくね~ん」

客が大入りで店が繁盛しているからか、上機嫌な様子でマネージャーは去っていった。

「はいはいはい行きますか」水の入った灰皿にタバコを押し込んだ。「ジュッ」火が消える情けない音が大きく聞こえてイラっとする。

フロアに向かおうとした時、私の進路を床に散乱している靴が私の進路を邪魔した。

「ちょっと邪魔!もうイヤ!」

イライラが止められない。思い切って靴を蹴り上げた。靴はドアの方に転がっていった。それを拾い上げる女の子がいた。

かなり怯えて「ごめんなさい、これ私のです。邪魔でしたよね。ごめんなさい」と言う。

「いいのいいの!ちょっとイライラしててさあ~全然気にしてないよ~こちらこそごめんね!」

恥ずかしいところを見られたという気持ちが強く、その場を離れようとした

「あの!ミキさん!」思いがけない大声にビックリして振り向く。

「ミヤちゃん・・?」同じフロアで働くミヤちゃん。私より年下、まるで人形のような美少女。透き通った瞳で私を見つめてくる。

「ミキさんが…怖いんです」「ハア?」「違うんです!」

「ミキさん…最近凄く、美しすぎて、怖いんです。昔からキレイでしたけど、最近、特に」「え?」あまりの展開に驚いて言葉が出なかった。

「ミヤちゃんの方が・・・可愛いよ」そんな言葉しか出なかった。

「あ、ごめんなさい。私、ちょっとおかしいですよね、でもホントです。鏡、見てみてください」恥ずかしそうに礼をして、ミヤちゃんはフロアに戻っていった。

どういう事?私は鏡台を見た。さんざん私にタバコを吹きつけられた鏡はくすんでいるかのように見えた。見ない。怖い。よくわからないけど、ミヤちゃんが悪気があって言ったとも思えない。私はフロアに戻った。

 

 

「この曲、いい曲だね」テツが持ってきたCDを私の部屋で流していた。

「だろ?」

「何か気だるい感じっていうの?リラックスできるけど、なんかどこか」

「かなしい」

テツはそういってソファに座る私の後ろに座り抱きついてくる。

「こういう曲、なんていうの?ジャンル?」「ボサノバだよ」「へえ…あとイントロの笛?みたいな音、凄くキレイだけど、なんか泣けるっていうか染みるね。何て楽器かな?」

「フルートだよ」「詳しいねテツ」「ミキが好きなものには詳しいんだよ」「すごおい」

「な、ミキ!風呂場行こうぜ」「ちょっと何」

私を立たせて後ろから抱きつき、テツは前に手を回してそのまま2人で風呂場までヨチヨチ歩く「ねえ何なの」広くない風呂場。風呂桶の横に洗面台がある。そしてその上には鏡がある。立っていても顔が見える高さ。後ろから抱きつくテツと私が映る。

「イヤ…」

「ミキは何で鏡が嫌いなの」

耳元でテツが囁く。高いテツの鼻が私の頬をくすぐる。

もう、逃げられない、と感じて私は正直に告白する

「私、自分が誰かわからないの。普段生きていて、ちゃんとした自分がいるのに、鏡に映ってるのが自分だって言われても、わけがわからないの。怖いの。それが嫌なの」

「ミキ…」

テツが私を抱きしめる。力強く。

「ミキ、俺も同じだよ。自分の中の自分と鏡の中の自分が一緒だなんて、現実を受け止められないんだ」

「同じ事思ってる人がいるなんて」テツがそう言って強く私を抱きしめる。見たくはなかったけど、情けない顔をした私が鏡に映っていた。

「ミキ、好きだよ」

「私も、テツのこと好き」前に回されたテツの腕に力を入れる。

「ミキ、嬉しいよ こんな気持ち初めてだよ」

私も初めてだった。

他人を受け入れて一つになる。心から。産まれてはじめて。

「な、ミキ、これからはお互いなるべく鏡を見て、本当の自分と向きあおう」

「…テツ、好き」

「ミキ、ほら鏡見て」そこには笑顔の私が映っていた。

 

「はぁー今日も終わった。眠いダルい辛い」

店を出た私、帰ろうかなと思っていると、この場に相応しく無い、洗煉とした少女がそこに立っていた。「ミキさん、ですよね?」「そうだけど?」可愛いのに、堂々としていて思わず圧倒されてしまう。「私、メグミです。村上メグミ。村上テツの妹です。」

非難めいた瞳、侮蔑が含まれているかのような視線で、怯えながら私を見ている。

悪い予感がしてきた。悪い予感だけは絶対に当たる。「いつも兄がお世話になっています」顔がどことなくテツに似ていた。私は返す言葉も無い。

「別れてください」「…」

「兄と別れてください」「…。」

そしてメグミが話を始める。テツの父は大物政治家で、総裁選に出るかもとのこと。もしかしたら総理大臣になるかもとのこと。

「今は父が大事な時期で…父の息子があの…水商売の女の人と付き合ってるなんて、もしマスコミにバレたら…それにテツ兄さんも将来的には後を継ぐ事になるかもしれないんです」

なんだか、安っぽいドラマみたいと少し冷静になって思っていたら「なんだかこんな、ドラマみたいな事、私も言ってるなんて信じられないんですけど…」とメグミが言い出す。

そしてメグミはアスファルトに手と両足と頭と膝を付けた。

「別れてください!お願いします!」

「やめて…メグミちゃん!」

「別れてください!」

「…わかったわ…」

メグミは相当な覚悟をしてたのだろう。顔を上げたメグミは涙で濡れていた。

「こんな所にいちゃダメだから、とにかく帰ろう」「大丈夫です。そこに車もあります」高そうで濃いスモークがかかった車が止まっていた。見えないが運転席から鋭い視線を感じる。

「じゃ、私、失礼します」もう一度深々と頭を下げて、メグミは去った。

 

繁華街にはギラギラと光が沢山きらめいているけど、眩しくない。そして夜空に星は一つも見えない。

ふるさとの滝川の星空を思い出す。圧倒的な星空を見る度いつも恐怖を感じていた。とてもキレイすぎて、言葉がでなくて、面倒くさいという事にして、見ないふりをしていた。

この街は光も星もない。東京でまたひとりぼっちになってしまった。

「いいわよ!無いなら、沢山流してやるわ!」その瞬間、涙が止まらなくなった。

「テツに会いたい」

産まれてはじめて、こんなに泣いた。

「ミキ、好きだよ」

テツの言葉が心の奥から聴こえる。

その瞬間、涙が止まった。私の初めての純粋な思いが、空に登って、星になって、燃え上がって、一瞬輝いたような気がした。

 

「ミキちゃんタバコやめたの?」

いつもの鏡台の前で呆然としている私にマネージャーが声をかけてきた。

「うん、もう吸わない」

「へえ~そうなんだ。それより今日、ショーで新曲披露でしょ~そろそろ準備してね!」「はーい」

私は鏡を見た。

念入りに念入りに、全体的なバランスを見つつ、顔を整えた。

「ミキさん…」「ミヤちゃん」

恐る恐る話しかけくるミヤちゃん。

「ミキさん、凄くキレイです」

「ミヤちゃんの方がキレイだよっ…てこの流れ、前もあったよね」

「ほんとにキレイです。でもなんか哀しくって」

「…大丈夫?ミヤちゃん?」

フロアからマネージャーの声が聞こえてくる。

「さあさー今日はみんな大好きミキちゃんの新曲披露ですよ!」

「行こうか」大きく頷いてミヤちゃんはステージに向かった。

私もステージに向かう。

みんな、オトナ。私も、オトナ。

「ミキちゃーん」いつものお客さんが声を掛けてくれる。私はセンターに立つ。

マネージャが客の盛り上がりに乗るかのように、曲の始まりを告げる。

 

「はいはいはーいそれではお聴きください!『オンナ・哀しい・オトナ』」

(完)

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