さわやかトラウマ日記

さわやかな音楽ブログです from 2004


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Plus-Tech Squeeze Box "cartooom!" (2004) 渋谷系 最後の打上花火であり爆弾

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Plus-Tech Squeeze Box「cartooom!」がリリースされたのは2004年だ。

どうでも良いことかもしれないけど、このブログが開始したのも2004年。

それらの流れを合わせてみれば、想像もつかないくらいの時間が経ってしまったということを感じてしまった。

 

その間に音楽も変わった。

ひとことで言うと音楽はかんたんになった。

いろいろかんたんになった。聴くのもかんたん。探すのもかんたん。好きなものを知るのもかんたん。好きではない感じを知るのもかんたん。聴かなくなるのもかんたん、

音楽は時代を経て「最もかんたんになったもの」の象徴といえるのではないのだろうか。

 

そして音楽を作るのもかんたんになった。

 

その究極がiPhoneで無料で使えるシーケンスソフトのGarageBandだけで立派なトラックが作れることになったことだろう。リズムもシーケンスも和音もベースラインも、そしてボーカルも録れるようになった。

 音楽を発表をする場も増えて、かんたんになった。YouTubeやら何やら音源自体を売ることもかんたんになった。

GarageBandだけで作ったトラックでメジャーデビューをした若いアーティストもいるらしい。音楽業界が若さに頼っているのは相変わらずといったところだけど。

 

Plus-Tech Squeeze Boxの「cartooom!」は、そのかんたんさとは無縁の音楽といるだろう。

このアルバムには無数のサンプリング素材が使われている、そしてそれらはそれぞれが加工がされている。曲に合わせて色を付けたり、削ったり、テンポを合わせたりなどを行っているのではないのだろうか。詳しいことは自分にはわからないけど、素材そのままをかんたんに使ったわけではないのだろう。それが伝わってきた。

それらを曲の中に的確に配置をすること。これにどれだけの手間と時間がかかったのだろう。想像もつかない。ボーカルが入っている後ろでも何かが常に鳴り続けている。人はそれを装飾、デコラティブなものと仮定するのかもしれないが、これはただの装飾ではなく、オーケストラのスコアのごとき効果的になるように、緻密な配置がされているのだと感じた。

20世紀に没したロシアの作曲家 イーゴリ・ストラヴィンスキーバレエ音楽春の祭典」の初演の際、識者がスコアを見たときに「中国語が書いてあるのかと思った」と述べたのは有名な話だろう。このPlus-Tech Squeeze Box「cartooom!」もそれに近いものがあると思う。凄まじい集中力と根気を持って作られたものだということだ。

 

だが、これを芸術的な作品だと言うつもりは全くない。カートゥーンを意識したらしいそのトラック群は極めてエンターテイメント性に富んだものであり、単に「聴いていてなんか楽しい」という結論に達するように出来ている。「トムとジェリー」のような無声アニメを彷彿させるような、言葉に頼らない、音の動きを表した音楽である。ヘッドフォンで聴くのもよいが、一番良いのは、人が集まる場所、パーティーやキッズストアで懸かっているのもふさわしいと感じた。

このアルバムの特徴としてノンストップでかかり続けていることも、アニメを想定していたのかもしれない。タイトルの「cartooom!」はカトゥーンから造成したもの。

止まることなく勢いを保ったまま、まるでグラインド・コアのアルバムの如きに脇目を振らずに突き進んでいく感じも受けるが、そう言い切るのには矛盾もある。

このアルバムはポップミュージックにおける主要ジャンルが多数に引用がされているのだ。Plus-Tech Squeeze Boxの前作「FAKE BOX」でもあったような可愛らしげなポップミュージックやカントリーのリズムをエレクトロニカルに変容させたもの、オーケストラが配置されたミュージカルの如きの仰々しい音像。ルーツなロックにパンク、JAZZ、そしてラップミュージックも。2004年に渋谷系界隈でヒップホップをやっていた人なんていなかったと思う。そこまでの柔軟性はなかった。あるとしたら「今夜はブギーパック」や、かせきさいだぁ氏くらいだろう。

もうそのシーンは無くなったけれども、いかにその時代において先鋭的であったかを証明ができるものである。

 

Plus-Tech Squeeze Boxもといハヤシベトモノリが、今でも支持を集めているのは、このような他には無いものがあるからなのだろう。そしてそれが2020年にサブスクリプションに配信がされた事は、現レーベルの尽力もあったのだと思う。それには経緯を評するしかない。

 

個人的な思いだけど、僕はハヤシベトモノリ氏と同じようなシーン、レーベルにいた。似たような状況であったということ。もしかしたらそこは渋谷系というところだったのかもしれない。でもそのシーンはなくなった。死んでしまった。

「cartooom!」は、渋谷系最後の打ち上げ花火であり、そして爆弾でもあった。

最後にふさわしい華やかで鮮やかなもの、そして破裂させてしまったもの。しかしたとえ一瞬であっても、打ち上げ花火と同じように職人が手間暇をかけて拵えたものは、心に残り続けている。鮮やかな色彩と音とその時の空気の記憶は消えない。そしてそこにあったものは消えてなくなってしまった。鮮やかな記憶と共に。これは渋谷系というものの、美しくきれいな終わりであったといえるかもしれない。終わりというものは悲しいものだけれども、このような楽しい終わり方は渋谷系にふさわしいものだったと僕は信じています。

終わり


 

 

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