さわやかトラウマ日記

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【レビュー】Lacroix Despheres「Resurrection Symphony」〜行動の芸術がここにある

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7年振り 新作の発表となったロックオペラバンド、Lacroix Despheresのシングル「Resurrection Symphon」についてレビューします。音源の視聴リンクは下記にて。

1、オーケストラとの共演について

  • 曲中のストリングスは、伝統のあるブルガリア国立放送交響楽団とのリモート録音によるもの
  • その為に必要な手配はヴォーカルの翔さんが行った。
  • スコアや各パート譜も翔さんが作成をした。
  • レコーディングの編成はストリングス以外はバンドメンバー(男女ツインボーカルとフルート、オーボエ、ギター2人)に加えて、クラリネットバスクラリネット、ホルン、パーカッション、ドラムは国内にて録音された。
  • レコーディングの総トラック数は300を超えた。

こう淡々と記してしまうと、いとも簡易にできてしまったように見えてしまいますが、これは…とても大変なことです。まず、スコアを書く。これが大変なことは想像に易い事ですが、それを遠く離れた各奏者、そして指揮者とのコミュニケーションも取る必要があります。もちろん英語などを使って…。それには計り知れない手間と時間がかかったのだと推測できます。

また、スコアを書いて演奏をさせた後に、思い描いたものとは異なったりすることも、あると思うのです。卓上だけではわからないですよね。音の厚みや和音の重なり、指定したアーティキュレーションの感じ方の違いなどは…。もちろんスコアを書いた翔さんは素人ではありませんので、問題は少ないのかも、しれないですが。

やはり遠く離れているので、うまくいかないこともあったのだと思います。が、プロジェクトは終わり、この度のリリースとなったことで問題があったとしても、それは解決したのだとマエムキに考えました!

2,注目すべき楽器編成について

Lacroix Despheresは通常のバンド編成に加えて、フルートとオーボエがメンバーにいます。これは通常ではあまり無いのですが、オーケストレーションの手法として考えるとフルートとオーボエのコンビは抜群のものなのです。この2楽器のスタッカートを用いたアンサンブル、各1オクターブ離れたフレーズでのオブリガートサウンドに添えることで、Lacroix Despheresの音楽にスリリングな華を添える重要な役割を得ていると感じています。

また、今回はフルート奏者がピッコロを兼任、オーボエコールアングレ(イングリッシュ・ホルン)を兼任しています。これも凄いなと思いました。これはポピュラー編曲家には思いつかない事、ただしクラシックの世界では普通のことなのです。だから凄いなと。「ここにはオーボエではなくコールアングレを入れたい」と思うことは、ポピュラー界で無いことです。また、冒頭部にゲストのクラリネット奏者が兼任をしてバスクラリネットが入っているのもシブいなと。

そしてゲストのパーカッション奏者による、ティンパニ、スネアドラム(ゲストの方の演奏なのかはわからないけど)、クラッシュシンバル、グロッケンシュピール、そのような打楽器が使用されているのも面白いなと思いました。

このように手間がとてもかかっているのです。それはそのような状況だけではなく、音楽においてもです。

レコーディングの総トラック数は300を超えたとのことです。壮大ですよね。

3,「Resurrection Symphony」について

この曲は「Dernier Paradis」シリーズの3作目「Dernier Paradis act3」の中に入る1曲とのこと。

「Resurrection Symphony」というタイトルはファンからの募集をしたもので、Resurrectionの意味は「復活」です。マーラー交響曲第2番にも「復活」と付いていますが、それも想起をさせるものとして敢えてこれを選んだということ。

一連のシリーズの冒頭の各ナンバーに共通している、テンポの速い目まぐるしい展開がハ短調によって進められていきます。ラクロアデスフェールの特徴である男女ツインボーカルもそのままに、一連のストーリーを追って進められていきます。

今回、気がついたことは、あるモティーフを繰り返し使用をした手法を用いての展開があるということです。1分30秒あたりからクワイアにて提示されるモティーフに、木管が入り、そのモティーフを基に曲が展開されていく。ある時はストリングス、または他の楽器とのトゥッティにて。

このモティーフの連用は、この曲の何かに追い立てられているような歌詞に添っているのかなと感じました。その追い立てられているさまが、このモティーフの度重なる提示と使用される楽器類の変化によって表されているのではないか?と。モティーフを定点いおいて、その他の主軸にあるものが、違う世界に駆け出して行きたいかのような風景が浮かびました。

このような音楽的な背景を想像させてくれるのも、ならでは、だなと。

 

中盤からは、曲の拍子が代わり、3拍子(自分には8分の6拍子に聴こえた)になり、また展開をしてという複雑な流れにはなっていますが、流麗さはそのまま。ギター・ソロも交えて進んでいきます。短調から長調になり、また短調になる。そのドラマティックさにオーケストラのサウンドはとても合っています。ストリングスの重厚さは、音楽における説得力を増す効果がある、ということは映画音楽においても証明されていますよね。それには今回のような生の弦の音が一番なのだと、感じました。

 

やがていわゆるサビ、メインのメロディに戻り、「Resurrection Symphony」は終演します。しかし、この曲で終わり、という感じはしません。きっと何かの続きがあるのだろうと感じさせる終わりだと感じました。

 

今回はカップリングとしてオーケストラだけのトラックも収められています。これを聴いた時、また違う感動がそこにありました。

たった一人で書いたスコアが、たくさんの奏者によって奏でられる。今回は既存の曲ではなく新しいものだった。とてもロマンがありますよね。スコアを書いた人はどんな気持ちで最初にこのトラックを聴いたのだろう、と思いました。さぞかし素晴らしい体験になったのだろうと。自分も昔に吹奏楽部でスコアを書いて演奏をしてもらった経験があり、それを思い出したりもできました!

 

このブログにLacroix Despheresが初登場は12年前のこの記事です。

maemuki.hatenablog.com

ここではラクロアデスフェールはV系界に現れた小室哲哉ではなくアカデミックな坂本龍一だ、なんて書いていますが、、それは別として、そのような方たちが成し遂げないことがあります。

それは全部自分でやるということです。翔さんがスコアを書いてそれぞれへの交渉や手配もした。ディレクションもした。ドルビーアトモス対応のための専門エンジニアも手配もした。リモートにて海外のレコーディングも行った。もしかしたら誰かの手も借りていたのかもしれませんが。

そのアカデミックさがすごいものはもちろんとして、その個人対その他へ向けた行動力と実現力、これもすごいなと素直に感じました。なかなかできないことですよね。現代においてやれるべき芸術の形を創ったのだとも思います。これも芸術のひとつなのかなと。

7年間ずっと待っていて良かったです!芸術万歳!

 

終わり

 

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