最近、普通に人と話すことがなくなってしまった。もうそんな生活が長くなってしまい、それについてはどうかなとは思うけれども、もうどうでもよくはなっていた。
でも、そう気づいて、「声を出して何かを話そうとしなければ」と思い、「あいうえお」と言ってみた。次は「かきくけこ」それは覚えていた。
でも、言えない。
「かきくけこ」がうまく発声できない。
次の「さしすせそ」はなんとか。「たちつてと」はやはり難しい。「つて」の辺りが難しい。「つて」という構成の言葉は見当たらないけれども、「う」と「え」がつながる言葉はあるかもしれない。
「なにぬねの」は破裂音がないから、大丈夫。「はひふへほ」は口角を意識したら大丈夫。「やゆよわをん」は大丈夫。
そこで「かきくけこ」に戻るとやはり拙い。そして「う」と「え」が母音の「く」と「け」が難しい。
「く」「く」「く」「け」「け」「け」とやると、「け」が難しい。そこで「けけけけ」「けけけけけけけ」と続けてみると、やはりトチってしまう。
いやしかし「けけけけけけけ」」と一人、部屋で言い続ける男というのは、どのようなものだろう。しかしこちらは真剣。ほんとうに困っているのだ。
僕には多重人格のケがあると思っている。それは杉浦幸主演、宮脇明子原作の「ヤヌスの鏡」の影響があると思う。
裕美とユミ。裕美はおとなしい少女、ユミはヤンキーみたいな夜の女。二人は同一人物で、入れ替わっている時の記憶はない。
いれかわり、といえば「君の名は。」今日、テレビで放映されていた。ちょっと見たのだが、自分が激しくシンパシーを感じたのは前半の「ど田舎少女と超都会男子の入れ替わり」のところ、だけ!だったと気づいた。主人公2人との近似を感じていたのだが、もっとも違うところに気づいた。
二人の心の中にある風景は「都会」と「田舎」の2つがある。でも僕の心の中にあるのは「都会」だけ。「田舎」はもう無いものとして日々を過ごしている。だって仕事も家の中だけ。外はまるで異世界のようなところ。そして話す人も誰もいない。
「かきくけこ」が言えなくなった、体調が悪くなった、一時期の記憶がなくなったのも、たぶんそのせいなのかもしれない。
やはり混乱してきた。こうして僕はたんたんとキーボードを打ち、仕事もしている。ちゃんと暮らしている。ここでちゃんと暮らしている、とは言えないけれども、いちおう生きているのに。
心はここにないなんて。本当は、それは違う、間違っているのかもしれない。
でも「かきくけこ」がうまくいえなくなる生活を、呪わずにはいられない。
どうしたらいいんだろう。
「都会のまえむきさん」「田舎の髙木ブー」2人の人格が僕の中で対立している。「君の名は。」のように、入れ替わって、分かり会えて、巡り合うこともできない。
どうしたらいいんだろう。
僕はもう「できるだけ非現実」に生きることにした。現実の中の異なる自分の中の2人をつなぎ合わせるために、そうすることにした。