さわやかトラウマ日記

さわやかな音楽ブログです from 2004


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僕は忘れない 町田樹「継ぐ者」に寄せて【フィギュアスケート】

オリンピックまで

いよいよフィギュアの季節ですね~

昨日はジャパン・オープンの開催日でした。

浅田真央ちゃん、宮原知子さん、そして宇野昌磨君の神演技と盛りだくさんで楽しかったです。日本人以外の選手も豪華なメンツで凄かったのですが、やはりこの日本人3人が特に光っていましたね

そして、「町田樹が引退して、新しいシーズンか」とふと思う。と同時に、そんなに時間が経ってないなとも思った。

衝撃的だった全日本での引退発表。ものすごい喪失感に襲われて、ショックを受けました。今までの誰の引退よりもショック。次の平昌五輪まで、続けてくれるものだと油断していたから。ボロボロになりながらも、更に高みを目指す町田さん…。なんて空想していたのに突然の引退!その理由も学業に専念するというもので、納得は行くような、行かないような。

「さみしい」

単純にそう思いました。フィギュアスケートはスポーツ。競技としては、いつか終わりが来る。そしていつ何があるかわからない。それはわかっていたけど、唐突だった。

町田くんは最初の印象は、ジュニアで全日本のトップとして無良崇人くんと争っているところから認識している。とにかく線が細くて、結構すぐ転ぶ。ジュニア時代のは無良くんには負け越し、または五分五分だった気がする。

しかも全日本男子は当時、高橋大輔織田信成小塚崇彦に、そして明らかに他と様子の違う羽生結弦まで出てきた。

この状況、僕だったら引退したと思う。あの人達には勝てない。そう思っても無理は無い。しかし、4回転ジャンプを決めたシーズンあたりから、彼は明らかに変わり始めた。表現力も「考えてやっている」というのがよく見えたし、動きも良くなった。何よりジャンプの安定感が年々増した。4回転ジャンプって何なのだろう。他の選手で「4回転をマスターした時から全てが良くなった」というのも聞いた事がある。

メディアでの真面目な面白発言もよかった。その圧倒的なインテリジェンスに多くの人が町田樹に興味を持ち始めた。そして遂に掴んだソチ・オリンピック代表。代表は髙橋大輔、羽生結弦、そして町田樹!凄い凄すぎる。彼は勝った。

世界選手権でついに神降臨

そして、非常に惜しかったけど良い演技だったソチ五輪を終えて、2014年の東京での世界選手権。なんと世界選手権初出場だった町田先生。信じられないけど、そうなんだ。

そしてショートプログラムの「エデンの東

このシーズン、いつも成功していた本人も自信のプログラム。GPシリーズなどでも名演ばかりで毎回「これを超えられるのかな」って思っていましたしかしシーズン最終戦のこの世界選手権、しかも東京(会場はさいたまスーパーアリーナだけど)で!

無理じゃね?ここで今までの素晴らしい演技を超えられる?僕の中では無良君に負けてシュンとしていた頃のどこか弱々しい町田氏が浮かんでしまう。しかし、彼はやった!He Does!

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完璧すぎるジャンプ達、恐ろしいまでのキレを見せる動き。音楽と動きが完全にリンクして、あまり好きではない言葉だけど、「波動」が見えるように心を刺す。表現というものの心底を見た気がした。

最後のトリプルルッツ、僕以上に彼はオリンピックでのこの箇所でのミスを思い出していたかもしれない。しかし、見事に成功!栄光に酔うような音楽と状況がシンクロする。彼は勝った!自分に勝った!

 しかし次のシーズンの途中で彼は引退を表明した。もしかしたらこの時、この大会を最後に引退も考えていたのでは?それだけの鬼気迫る演技だった。FPも素晴らしい演技で羽生結弦と僅差で2位。惜しかった。

継ぐ者

 引退後、スッパリ全て辞めるのかなと思ったら、数々のアイスショーに出演した町田樹。余裕が無くて見に行けなかったけど、なんだか凄い噂が入ってくる。「町田くんのプログラムは6分」とか「シューベルトのピアノの曲」「とにかく凄い!」「ネ申…」凄い評判に期待ばかりがうずく。そして、出演したショーがテレビで放送されると知り「まだかなまだかな 」状態で待って待っていよいよオンエア。

シューベルトの「4つの即興曲」の第3曲。

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驚いた事にノーカット、原曲のまま、6分そのまま。フィギュアスケートは競技時間が限られているため、曲のカットどころかツギハギが多く、中には「えっ」というもの多く不満だったのだが、やはり音楽にも精通する町田様もそうだったのかもしれない。作曲の息を止めず、全てを表現する。

楽譜そのままに演奏がされると、やはり曲の持つ表情がそのまま表れる気がする。これが本来の姿。

このシューベルトの曲は、かなり地味というか控えめに見えるけど強い決意が感じられる曲だ。町田様も抑制された動きで、しかし着実に思いを伝える。これは何?もう言葉とかいらない。時代を超えてシューベルトの様式と思想が一体化している。深い感動と開放感に包まれた。

その後に、公式ブログに発表されたこの曲に関しての町田様が自らお書きになっているのだが、文章がまた感動的。

http://tatsuki-machida.com/skating/17_inheritor.html

継ぐ者 (THE INHERITOR)

 シューベルト(Franz Peter Schubert, 1797-1828)作曲「4つの即興曲 作品90/D899」中の第3曲を使用しています。この曲から自分が受けた発想をもとに、「継ぐ者」というタイトルを創案しました。同曲は、1827年に作曲されたもので、シューベルト最晩年の作品と言ってもよいでしょう。(以下略)

 

このマナーが正しすぎる人物表記と作品の表記の仕方!ドイッチュ番号までついている!やはり彼は只者じゃない。他に今まで滑った曲のリストはあるが文章は無くて、クレジットだけなのだが、これの表記も素晴らしい。クラシック音楽にも造詣が深いと推察される、町田様さすが!

この文章で「継ぐ者」という言葉の意味について、演技を見ながら深く考えたり考えなかったりしています。よくわからないけど、もっと見たい ずっと止まらない でも明日でもいい、明日はきっとあるから。

 個人的にこのシューベルトの「4つの即興曲」の第3曲が「継ぐ者」と呼ばれるようになればいいのにと思います。今日、明日じゃなくて、何十年後でも。クラシックって作曲家の意図に関係なくタイトルがついてる事が多いんですよ。「運命」「革命のエチュード」「別れの曲」「仔犬のワルツ」別に作曲の動機とは関係ない(とは言えないけど)商業的な理由でなんとなくついただけ、というのもある。

 

この曲がいつの間にか「継ぐ者」と呼ばれればいいのに。

継いでいければ可能なのではないか。言葉ではなくて、それを超えた、既成概念にない「思い」、それを感じて生きていくこと、具体的な何かではない、それは?それは「継ぐ者」を見て、ただただ向き合ってみたらいいのです。なんとなく宗教っぽくなってきました!!しかし言葉なんて愚かなのです。

これ以上の言葉はいらないと判断し、終了します。