さわやかトラウマ日記

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【レビュー】郷ひろみ「HIROMIC WORLD」(1975年) 大人になることへの美しき戸惑い

1975年発売の郷ひろみ「HIROMIC WORLD」

これは郷さんが20歳の時に発表された作品で、レコーディング中に20歳の誕生日を迎えたらしい。中には「20才を過ぎたら」というタイトルの曲もある。

このタイトルを含むアルバムの全曲を作詞は、荒井由実、結婚前の松任谷由実が担当をした。ユーミンは郷さんから少し上だけど同年代。20歳そこそこの若者2人がこのアルバムを作り上げたということには感嘆せざるを得ない。

「HIROMIC WORLD」を知ったのは、筒美京平マニアとしてよく知られる近田春夫氏が著書にて「筒美京平さんが全曲作曲をして編曲をしたアルバムの中でも、特に素晴らしいもの」と紹介をしていたことからだった。

郷さんと筒美京平のつながり、なんて今更ここに書くこと必要はないだろう。しかしこのアルバムはデビュー曲からの一連の流れでこのアルバムが作られた、というわけでもなさそうな状況の変化があった。

郷さんがジャニーズ事務所から独立をした後の、最初の作品がこの「HIROMIC WORLD」だった。シングル曲が収められていない、アルバムの為の曲だけで構成されていることも新しいものだったのだと思う。そして20歳を迎えることもある、これからの芸能生活における大きな転機の頃の作品だったのだ。

この作品における筒美京平の作曲はもちろん編曲も素晴らしい。作曲と編曲では考えることは異なり、別者が担当をして良いことも、意図をしない結果になることもあるとは思う。それが無くなったことで、曲も編曲もより自由な音像を描くことに成功していると感じた。

1曲目「午后のイメージ」はきらめくHarpとストリングスが涼しげな午后の爽やかな風景を想起させる、それは筒美氏独自のメロディの譜割りとコード進行を経てのもの。ただのポップスでは終わらない、ということが氏の特徴であると示している。

このように、このアルバムには至る所に音楽的な遊び心が詰められている。それに応えようと郷さんも、のびのびと各曲の世界を演じているのが伝わってくる、と同時に少年から大人になる時の、ある種の居心地の悪さも感じさせる。が、それは貴重なものであり、今となっては一流のエンターテイナーななった事を踏まえると、愛おしいものと言えるのかもしれない。

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もし、このアルバムの中でシングルカットが出来る曲があるとしたら「ウイスキー・ボンボン」だと思う。

筒美京平らしいウネウネと半音で動くメロディに、段階を踏んで世界が広がっていき「今日のところは ウイスキー・ボンボン」のリフレインが繰り返される。

ジントニックを勧められたけど、カーペットにわざとこぼす 今日のところはウイスキーボンボン 僕はつまんでおうちに帰るよ」

というストーリーがある曲。幼さが残る郷ひろみの歌声と、未成年から成人へと変容しつつある状況への戸惑いを可愛らしく表現をした曲。

これを作詞したのが、同年代のユーミンだということを考えると、やはりすごいな素晴らしいなと思うのです。

 

このアルバムを聴き終わって、素直に感じたこと。それは郷ひろみはアイドルだったということ。この時代のアイドルと今のアイドルは違うものだと思う。

今ではアイドルであることを明示的に示して、それを演じることがアイドルであるが、この当時は、それは他人が決めるものだったのだと思う。その呼称に相応しい郷ひろみ個人の個性、それがアイドルだったのだろう。

しかし、本人はそれに甘んじなかった。世界を広げていってより深い自分を出して行きたかった、それが現在の姿なのかもしれない。

なんだか大仰になったけれども、このアルバムは楽しい明るいものなのです。それが一番大事ですよね。郷さんユーミン筒美京平先生の素晴らしい才能を楽しんでください。終

 

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